2014/07/27

除染作業員の一日

除染作業員の朝は早い。


※このお話はたぶんフィクションです。実在の人物や団体とはあんまり関係ありません。


AM5:30
起床。寝ぼけながら相部屋の人に「ざす」とかいう。

僕がいま住んでいるのは福島県相馬市の観光地、松川浦ってところの旅館です。このあたりの旅館・民宿は、いまは復興関係の業者の宿舎になっているところが多く、だいたい2〜6人部屋。僕のとこは2人部屋。

AM6:00くらい
朝飯を食ったあと、近くにある大きな旅館のロビーに集合する。

「ざす」
「ざーす」
「うぃす」
「うーす」

こういう職場では誰ひとりとして、まともに「おはようございます」などとはいわないものである。

班長からID(名札)と線量計を受け取り、車に乗り込む。ハイエースに8人が乗るのですし詰めになるけど、もう慣れた。観光バスで来てる業者もいて、それはちょっとうらやましい。ちなみに行き帰りの運転をすると手当が付く。僕もたまに運転する。

途中でコンビニに寄る。現場で弁当は出るけど、あまりうまくないので、ここで買っていく人が多い。僕も最初の金のないころは給料天引きで食える現場の弁当だったけど、給料出てからはパンにした。

AM7:30くらい
南相馬市の南端にある拠点に到着。学校等の大きな施設を借りて現場の拠点にしていて、ひとつの拠点にだいたい千人くらいの作業員が集まる。

ヘルメット、ベスト、腕章、安全長靴を装着。使い捨ての高性能な防じんマスク、綿手袋、ゴム手袋が支給されるのでそれも装着し、入場処理をする。入退場の端末はタッチパネルだけど、おもいっきりマウスカーソルが見えていて、処理中にはWindows7のあのぐるぐるまわるビジーカーソルになってて吹くw 線量計の電源をONにして差し込まないと入場できないのはいい仕様だと思う。これがないと電源つけるの忘れる人たくさんいるだろうから。





防じんマスク(2種類から選べる)
※画像はイメージです。





綿手袋、ゴム手袋
※画像はイメージです。





線量計
※画像はイメージです。


AM7:50
ラジオ体操開始。千人以上の作業員がずらりとならんで体操するので、最初のころは「なんかすげー」とか思ってた。いまはもうあたりまえの光景になっちゃったけど。でも終盤の「開いて閉じて、開いて閉じて」のとこで、千人以上がジャンプして地面がドシドシいうのは、いまでもたまに吹くw

次に、うっかり災害防止体操。これは元請けの建設会社の現場で行われる体操らしい。よくわからない。前のほうにいる元請けの人がマイクで案内する。

「まずは顔の緊張と弛緩を行います」
「緊張!」
「ゆるめて」
「緊張!」
「ゆるめて」

こんな感じで、首と肩の緊張と弛緩、深呼吸、目覚まし動作(腕の曲げ伸ばし)もやる。

それが終ったら朝礼。下請けの各業者の代表が、今日の担当工区や安全注意事項なんかを読み上げていく。そのあとは元請けから安全に関するありがたいお話がある。かなり話が長くなることもあって、陽射しがきつい日なんかは、まわりの作業員たちから殺気が伝わってきて吹くw

そして朝礼の最後は隣の列の人と向かい合いになって指さし呼称。

「ヘルメットよし!」
「 「ヘルメットよし!」」
「あご紐よし!」
「 「あご紐よし!」 」
「マスクよし!」
「 「マスクよし!」 」
「手袋よし!」
「 「手袋よし!」 」
「線量計よし!」
「 「線量計よし!」 」
「足元よし!」
「 「足元よし!」 」
「顔色よし!」
「 「顔色よし!」 」
「今日も一日ゼロ災害でがんばろう!」
「「がんばろう!」」
「ご安全に!」
「「ご安全に!」」

そのあとはまたバンに乗って担当工区へ向かう。現場についたら各班ごとにKY活動(危険予知活動)が行われる。今日の作業内容で危険なところはどこか、それへの対策はどうしたらいいか、なんかを話し合う。

AM8:30くらい
やっと作業開始。

除染というと何か特別なことをしているように聞こえるかもしれないけど、そんなことはない。放射性物質の放射能を除去する技術なんてものはなく、イスカンダルに行けない現代人にできる対策は、取り除く、さえぎる、遠ざける、の3つしかない。除染とは、放射性物質の付着した土や草を取り除いて一箇所に集め、人の生活圏から遠ざける、というそれだけのことだ。

森林の場合は、刈払機で草を刈ったり、枝を打ち払ったり(常緑樹のみ、落葉樹は放射性物質の付着した葉はすでに堆積物になってる)して、それを集めてフレコン(フレキシブルコンテナの略、大型土嚢袋)に詰めて、そのフレコンをトラックで仮置き場に持っていく。

農地の場合は、草を刈ったあと、ローラーで転圧し、ユンボで表土を5cm削り取り、新しい土と入れ替える。そこで出た土はまたフレコンに詰めて、仮置き場に持っていく。





フレコン
※画像はイメージです。


僕の所属する会社では住宅除染は請け負ってないけど、あっちは屋根瓦を1枚1枚拭いたり、壁を洗浄したり、ホットスポットになってる雨どいの清掃なんかをしてるみたい。

実際の作業として僕がやってるのは、刈った草を手作業で集めたり、ユンボの入れない場所でスコップを使って土の削り取りをしたり、フレコンの中に入ってワイン作りのように足で踏み固めたり(仮置き場でピラミッド状に積み上げるのであるていど固まってないといけない)、車や重機の誘導したり、トラックやダンプに乗ったり、日によっていろいろです。

勤め始めてしばらくしてから、ちょくちょく管理の手伝いもやらされるようになって、報告書のための写真撮影をしたり、監督業者の検査の立ち会いをしたり、そういうちょっと頭を使う系の仕事もしてます。

現場保管してるフレコンを仮置き場に持っていく前には端末入力が必要で、これもやってるんだけど、端末がAndroidのスマホで吹いたw 昔ならハンディターミナルを使うようなところでも、最近はスマホで二次元バーコードをスキャンするっていう感じになってきてるのね。こっちのほうがハード・ソフトともに安く抑えられるだろうし、これからはこういうのが主流になっていくのかなあ。それがメインの仕事道具になる物流センターとかだときついかもしれないけど、サブの業務(会社の機材管理とか)なら、これで十分だもんね。


※繰り返しますがこのお話はたぶんフィクションです。


PM0:00くらい
昼休憩前にはスクリーニングを受ける。放射性物質を休憩所に持ち込まないように検査があるのだ。ひとり30秒もかからないけど、混んでるときはかなり待たされる。それが終わったらマスクと手袋を捨てて、新しいものをもらう。そして昼飯。

PM5:00くらい
退場前にも同じようにスクリーニングがある。そのあとは朝と同じようにタッチパネルの端末で退場処理。線量計から読み取った1日の被ばく量が印字されたレシートが出てくるので、それをもらって仕事終了。

帰りのコンビニはどこも混んでる。当然ながら客は除染作業員ばかりである。そしてどこのコンビニもフライドフーズは山盛りにしてある。ここまで陳列ケースがいっぱいになってるのは、どんな繁華街でも見たことがない。





そしてこのゴミ箱である
※画像はイメージです。


PM6:00すぎ
ようやく旅館に戻ってくる。飯食って、風呂入って、ビール飲んで、寝る。長い一日の終わり。

そんな毎日。